ドイツの整形外科靴 ※2001年作成

健康を考えた靴選びが注目を浴びるようになって以来、日本でもドイツの健康靴をよく見かけるようになりました。今回は、本場ドイツで修業、日本で整形外科靴の工房を開く予定の若林拓さんに、ドイツで実際に快適な靴を選ぶにはどうしたら良いかを言葉の解説も含めて、伺いました。
外反母趾、その他で長時間の歩行やスポーツの後に痛みを感じる方、また中敷を作ったもののそれに合う靴選びに迷っている方も多いのではないでしょうか?ぜひ参考にしてください。

  ドイツ整形外科靴技術の紹介

  −はじめに-

皆さん、整形外科靴技術というものをご存知ですか?ドイツ語ではOrthopaedie-schuhtechnik と言いいます。靴屋でも普通の靴屋とは少し違います。比較的近い例では、歯医者さんに行って、歯の治療をしたり、矯正をしたり、入歯を作ったりするのに似ています。日本における歯医者さんと同様、ドイツでは健康保険が適用され、多くの人が利用しています。

  −整形外科靴の店はどんな事をしてくれるの?

その名前から、多くの人が靴を作るのが主な仕事だと間違えますが、整形外科靴作りは整形外科靴職人の多様な仕事の一部です。整形外科靴職人はその他、靴の調整、特性中敷の作成、足に良い靴選びのアドバイスと販売、装具の作成、修理など足と靴に関するさまざまな仕事をします。ですから、店によってその形態もさまざまで、健康靴を扱っている所もあれば、Fusspflegeをしてくれる所もあります。

  −どんなお客さんが利用することが多い?

重度の足の障害をもった人も来ますが、お客さんの8割方が軽い問題を持つ人達です。よく目にするのが子供のO脚、X脚、偏平足などを矯正したいお母さんに連れられた子供、外反母趾、槌指などおしゃれなヒール靴の弊害で悩む女性、年を取って体の機能が衰えても、元気に歩いていたい年配のお客さん、などです。

  −お金はどれくらいかかるの?また利用回数に制限はあるの?

健康保険が適用されるので、通常は靴の調整の場合は全額保険会社が負担、特性中敷は費用の20%が自己負担となります。整形外科靴を作成すると、約70〜140マルクが自己負担となります。保険を申請しないで利用する事も可能ですが、その場合はもちろん全額自己負担となります。(整形外科靴の製作で1000〜1500マルク)

保険の利用回数は通常、特性中敷、調整が年に4ペア。整形外科靴が初年度2ペア、次の年から1ペアづつ作成可能です。

  *これらの条件は、お医者さんや保険会社により異なってくることがあります。

  −来店時の通常の手順

まず来店すると、店のスタッフとどのような調整、特性中敷、もしくは靴が必要なのか話し合います。それからお医者さんに行き、診断を受け、処方箋をもらいます。再び店に行き、その処方箋を店のスタッフに渡すと製作に取りかかります。

市販靴の調整、中敷の作成で、数日。整形外科靴の作成で数ヶ月くらいかかります。指定された受取日に来店し、そこで試し履きを行ない、足との適合性を見ます。痛かったり、合わなかったりすれば、その場で調整し直してもらいます。納得したところで、処方箋にサインし、自己負担金を払います。

家に持ち帰って、一定期間試した後、痛みが出たり、効果が無いように思ったら、また店に行き、スタッフと相談し、調整しなおす、もしくは別の調整や、中敷・整形外科靴の作成を行ないます。

  *店を訪ねる時、心にとめておいてほしい2点。

・相談に行かれる方は調整を行ないたい、中敷を入れたいと思っている靴と、普段、自分が良く履いている靴を店に持ってく事を強く薦めます。調整したり中敷を作るのに、その元となる靴は欠かせませんし、また店では大抵、普段履いている靴がその人の足にどういう影響を与えているかを見るからです。

  ・靴を作って、また調整をして、それで終わりではないという事を頭にいれておいて下さい。というのは、店で作成したものをお客さんに履いてもらい、一回でそれでぴったりその人に合う、痛みが全く消える、という事はあまり無いからです。通常、受け取りの後もお客さんは平均3回くらい微調整のために店に来ています。ですから調整や中敷が自分に合わない、痛いと少しでも感じたら、すぐ、その店に持っていって直してもらう事を勧めます。今まで見ていますと、はっきり苦情を言うドイツ人に比べ、日本人のお客さんは、我慢してしまうことが多いようです。

  −整形外科靴技術職人って何?

ドイツでは整形外科靴職人は国で認められた資格です。修行では、工房で仕事として実技を学び、学校で理論を学びます。(ドイツの職業訓練システムで、デュアルシステムと呼ばれています。)3年半の修行期間を経た後、職人試験(靴作りなどの実技試験、生理学、解剖学などの筆記試験)を受験し、合格すると晴れて一人前の職人として認められます。もともとはドイツから生まれた職業ですが、足の問題は世界中で尽きないようです。現在、整形外科靴職人はヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本などで活躍しています。

日本では、ドイツ人整形外科靴マイスターが定期的にセミナーを開き、多くの靴、医療関係者が学んでいます。また、1999年には兵庫県の三田に整形外科靴技術の学校が出来、そこから毎年ドイツ人マイスターの指導を受けた3、40人の日本人の若者が巣立っています。

  −おわりに

近年、足と靴の問題が多くマスコミに取り上げられるようになり、例えばちょっと前まで誰も知らなかった外反母趾という言葉は今や世間で立派に(?)市民権を得たようです。整形外科靴技術は日本ではまだこれからの新しい分野ですが、少しでも多くの人にその存在を知り足の健康のため利用してもらいたい、そう思いこの記事を書かせていただきました。皆さんが快適に歩き、人生を楽しく過せることを靴職人の一人として心より願っています。

*知っていると便利な単語

調整−Zurichtung(ツーリヒトング)

特性中敷−Einlage(アインラーゲ)

コンフォートシューズ(健康靴)−Gesundschuh, Bequemschuh

整形外科靴−Orthopaedieschuh(オートぺディーシュー)

外反母趾−Halux Valgus(ハルクス バルグス)

処方箋−Rezept(レツェプト)

保険−Versicherung(フェアズィヒアロング)


靴屋の中には整形外科靴マイスターの資格証が飾られている

若林拓

−自己紹介

1972年生まれ

日本の靴店でドイツの靴の販売を行なう。

1999年来独、Nordrhein-WestfahrenCoesfeldの整形外科靴工房Orthopaedieschuhtechnik Lammersで修行を行なう。

2001年八月帰国、日本の彦根で整形外科靴技術の工房を開く予定。

若林さんありがとうございました!!
日本でのご活躍を期待しています。


日本でも人気のドイツ製健康靴

※ちょうど7月5日付「朝日新聞」にも日本で活躍するドイツ人の整形外科靴マイスター、カール・ハインツ・ショットさんが紹介されていました。この方は東京都新宿区にある靴店「足と靴の相談室エルデ」で整形外科靴の製作をしていらっしゃいます。記事によると、足の障害やリウマチなどで市販の靴だと歩くことが困難だった方たちが、この整形外科靴を利用するようになってとても楽になったそうです。日本での価格は、1足数万円〜10万円近くかかるようですが、医師の診断があれば健康保険の利用も可能なようです。