Solingen刃物工場見学に参加して ※2006年作成


4月25日、ラインブリュッケのメンバーは日本人クラブの企画「Solingen刃物工場見学」を利用し、いつもの作業部屋を離れ、Solingenを訪れました。ドイツの4月のお天気は不安定、ドイツ人の口にもよく出る"アプリル・ヴェター"という言葉は荒れ模様のお天気(雹、雷、晴れ間、雨、風と変りやすいお天気)を指す言葉です。4月も末になり春めいた穏やかなお天気を期待していましたが、甘かった!やはり小雨模様、気温も低めの一日でした。
日本でも刃物の街としておなじみのSolingenはデュッセルドルフから車で高速道路を使うと30分、少し時間はかかりますがBergischeslandstarße(直訳すると山岳道、実際は丘陵道)を通ると起伏の多い丘がいくつも続き、この季節は一面の菜の花畑も見ることが出来ます。平地が主なデュッセルドルフとは景色が異なりちょっとした遠足気分を楽しむことも出来ます。
今回はバス、アウトバーン利用で時間短縮、というのも午前と午後で2ヶ所の工場を見学するためです。

《ZWILING J.A.HENKEL社》

初めに訪れたのは双子マークで有名な"ZWILING J.A.HENKEL社"。
ここSolingenだけで650から700人が働き、日本、アメリカなど海外の支店の従業員もあわせると1800人の従業員をかかえる大企業です。日本の刃物で有名な関市でも製造工場建設の計画があるそうです。この工場で実際に製造に従事している従業員は意外と少なく160人ほど、機械化が進んだ現在はほとんどの社員は経営、販売、管理などの担当です。戦争中は手榴弾など武器を生産していたこともあって攻撃の対象となり、70%が爆撃の被害を受けました。戦後も戦争中の武器生産の影響で工場再開の許可が下りず、1950年代に入りようやく刃物の生産ができるようになったそうです。今回は数ある製品の中で包丁の製造工程のみ見学しました。広い敷地内の建物は型抜き、形成、研磨、持ち手の装着、仕上げ作業と役割ごとに配置されており、順に回ると予定の1時間をうに超えました。


ZWILING J.A.HENKEL社屋

ー包丁ができるまでー
〈型抜き、形成作業〉
型抜き、形成作業は二つの方法があり、その方法によって作業場も二つに分かれています。
1)一つ目の方法は伝統的な方法です。出来上がりよりかなり大きく長方形に型抜きされた鋼材全体に熱を 加え圧縮する作業を何度も行い、中央部のふくらみと持ち手部分の厚みを出していきます。この作業で繊 細で薄い刃先から徐々に厚みを増し、持ち手はしっかりとかなりの厚がでます。その後再度型抜きの作   業をおこないます。この方法ではかなりの材料の無駄ができること、今のところオール・オートメーションと することは無理で、販売価格も高く、当社の生産品の中では高級品となるそうです。
2)もう一つの方法はやや小さく長方形に特殊鋼を切断、厚みが必要な部分のみ、つまり真中だけに熱を加 え、厚みをだし、縁を切断します。この作業はオール・オートメーションでした。

〈加熱・冷却作業〉
それぞれの工程で形成作業を終えた製造過程の刃物が次の棟では加熱冷却処理が行われます。1600度まで熱が加えられ、急激に冷やされます。そうすることで強度を増します。

〈研磨作業〉
研磨の作業棟では幾種類もの石、ベルト状の布ヤスリが使われていました。車のタイヤほどの大きさのドーナッツ型の石ヤスリが6時間の作業で自転車のタイヤぐらい細さ薄さになっているのには驚きました。

〈持ち手の装着・洗浄〉
方法1で形成された包丁の持ち手部分に薄い樹脂製のカバーを熱で装着、方法2の方法で形成された包丁の持ち手にプラスチック製の持ち手をねじで装着します。持ち手のはみ出した部分のカットなどひとつ、ひとつ手作業で行われていました。最後に大型洗浄器で洗浄されます。

持ち手の装着や仕上げを除いて多くの工程でたくさんの機械が導入されていました。機械を使うことで人件費の削減のみならず製品の質の向上や安定、熱や水の無駄も省るそうです。たとえば洗浄水は大型機械を導入したことで60日間同じ水が繰り返し利用され環境の観点でも利点が多いそうです。

引き続き敷地内のショップへ、ガイドツアーで説明を受けた形成作業における二つの方法(一つは昔ながらの工法:金属全体を熱し厚みをつける、もう一つは省エネ工法:中心部の必要箇所のみ熱し加工)もショップに並んだ包丁から簡単に見分けが付くようになりました。

《Niegeloh社》

次に訪れたのは"Niegeloh社"。
住宅地のすぐ脇にあり、外観は周辺の町並みと馴染んだもので刃物工場というより学校かコミュニティセンターという印象を受けました。ここで製造されているのは小型はさみ、爪切り、ピンセットなどコスメティックで重宝される小型製品が主です。我が家で使っている爪切りも形も大きさもそっくり、これらの製品は日本人にとってドイツからのお土産で人気の高い分野でもあるでしょう。
会社のご好意の各種サンドイッチを頂きながら会社の説明、工程を簡単に説明してもらいました。1936年Niegeloh兄弟によりNiegeloh社は創業を開始し現在まで続いています。現在の社長は創業者の子息で今回のガイドツアーでは社長と彼の甥子さんが説明役でした。挨拶の中で日本の刃物の町、関市と当社との長い結びつきに触れられ、日本の刃物の歴史と職人技を称えられるなど、伝統と品質にこだわる社長の人柄、会社の精神を感じ取ることができました。Niegeloh社ではおもに小型のはさみの工程を見学しました。

〈金型製作〉
工程の最初はコンピューターを使った図面から金型を製造する作業。小型はさみの型枠は ちょうど子供のよく遊ぶ積み木のような金属をくりぬいて作られます。手のひらにのる大きさの幼児用知育パズルのようです。

〈型抜き〉
次の工程ではこの型枠をつかっての型抜き。ちょうどピンセットの型抜きがおこなわれていました。機械でどんどんピンセットが飛び出してくる、また上のほうからはくりぬいたときの余分な部分も一続きで飛び出してきます。家庭用写真ではぶれてしまうほどのスピードでした。
隣の部屋では向きをそろえて並べる作業がおこなわれていました。働いているのは一人の男性、曲芸氏のような早業でみごとに揃えます。彼のスピードと正確さには最新の機械も及ばないそうです。


はさみ金型

〈加熱〉
次は加熱作業。ここでも一人の職人さんが370度、850度、160度、真水と4つの並んだ桶の前で作業をしていました。熱を加え冷却することで強度を増すことができるそうです。桶の温度を上げるために塩が用いられ、800度を越す桶は真っ赤、まるで火山の溶岩のようでした。ここには1分つけます。
「時間を示すアラームのような装置があるのですか」と言う質問に甥子さんは「ああ、時計なら壁にはかかっているけど」、やは
りここでも職人さんの腕と勘の見せ所のようです。


加熱桶


〈研磨作業〉
となりは研磨作業。
作業所の外には粒の大きさのことなった小石をいれた大きな袋がならんでいました。作業所には大きな釜が4つあり、ちょうど作業中の釜のふたを開けてみせてもらいました。
はさみはごろごろと小石と一緒に回っていました。何十時間も小石で研磨した後、別の釜で砂と一緒にごろごろ回転させ、水分を完全に取ります。

〈刃先造り・研磨〉刃先つくりと研磨をおこなう大きな部屋。
ここの主役は整然と並んだ機械。この部屋ではさみの刃がほぼ完成に近い形まで作られ研磨されます。


〈組み立て・仕上げ〉
最後の工程は、組み立て、仕上げ磨きをして
左右のはさみをねじでとめます。一つ一つ、職人さんが勘を頼りに手で閉めます。強すぎず弱すぎず熟練した職人さんがねじで止めます。最後に刃先の重なり具合、刃のそり具合を一つ一つ調べ、職人さんが脇の磨ぎ機やハンマーを使い完成品に仕上げを行います。この部屋の職人さんは今まで見学した部屋にあったすべての機械類の小型を判を操ります。


ねじ締め作業


仕上げ研磨

ここでは型抜き、おおまかな刃造り以外はほとんどの工程が職人さんの仕事によるものでした。比較的小さな製品を製造しているためか職人さんの腕は機械より早く正確とみなされ、各部署にはこの道、何十年のスペシャリストが働いていました。
自然光の入るクリーンな快適な職場環境で働くドイツの職人さんの自信のある表情が印象的でした。